
動画や音楽を視聴する時に「ビットレート」という用語を目にしたことはありませんか?動画の制作や配信の際にはビットレートの設定が重要です。では、具体的にどう設定すれば良いのでしょう。この記事では、ビットレートの基本概念から、画質・音質への影響、最適な設定方法まで、わかりやすく解説します。動画の制作や配信に携わる方だけでなく、より良い視聴体験を求める方にも役立つ情報をお届けします。
ビットレートとは?基本概念を理解しよう
ビットレート(Bit rate)とは、単位時間あたりに処理されるビット数を表す値で、一般的には「bps(bits per second:ビット/秒)」という単位で表されます。映像や音声のデータにおいては、1秒間にどれだけの情報量(データ量)が使われているかを示す指標です。
例えば、1Mbps(メガビット/秒)のビットレートは、1秒間に約100万ビットのデータが処理されることを意味します。この値が大きいほどより多くの情報を含むため、通常は高画質・高音質になります。
ビットレートの単位
ビットレートは以下のような単位で表されます:
- bps(ビット/秒):基本単位
- Kbps(キロビット/秒):1,000bps
- Mbps(メガビット/秒):1,000,000bps
- Gbps(ギガビット/秒):1,000,000,000bps
ビットレートの4つの種類

ビットレートにはいくつかの種類があります。種類を知ることで映像や音声のデータを扱う際にどのくらいのデータ量なのかを把握しやすくなるため、ぜひ覚えておきましょう。
1. 音声ビットレート
音声ビットレートとは音声1秒間に対してのデータ量を表すものであり、算出する際は、音声1秒間あたりの処理回数であるサンプリングレートと1サンプリングあたりのデータ量であるビット深度を掛けます。
音声ビットレートの目安としては、MP3やAAC、WMAなどの非可逆コーデックの場合96kbpsから128kbpsで、高音質なものとなると192kbpsから320kbpsです。
2. 映像ビットレート
映像ビットレートとは映像1秒間に対してのデータ量を表すものであり、基本的に音声ビットレートよりも大きな数値を示します。
映像ビットレートに関しては、解像度の高さ低さや動きの多さ少なさなどによって適切な数値が異なり、基本的に数値が高いほど高画質です。例えば4K動画の場合、25Mbpsから70Mbpsが目安といえるでしょう。
算出方法としては、画像の幅1インチあたりの画素数である解像度と1画素あたりの色情報であるRGBデータ量、それにフレームレートの3つを掛けます。
フレームレートというのは、1秒間に表示されるフレーム(コマ)数を示す値です。fpsという単位で表記されるもので、例えば60fpsなら1秒間に60コマ表示されることを示します。ビットレートと同じように、フレームレートは動画を扱う上でよく用いられるものです。
3. オーバルビットレート
オーバルビットレートとは映像と音声のビットレートを合計した数値のことです。これをチェックすることで、動画全体のビットレートがどのくらいなのかを把握できるため、動画を扱うのであれば確認しておくようにしましょう。
オーバルビットレートは総ビットレートと呼ばれることもありますが、一般的に動画のビットレートという用語自体が、オーバルビットレートを意味することが多いです。
4. その他のビットレート
ビットレートは前述のものだけではありません。例えばエンコード形式で分類すると、固定ビットレートと可変ビットレートがあります。
固定ビットレートとは映像や音声をエンコードする際に使われるものであり、CBRとも呼ばれます。映像や音声の情報量を問わず、目標としたデータ量でエンコードすることから、圧縮後のデータ量がどのくらいなのかを予測することが可能です。
可変ビットレートも映像や音声をエンコードする際に使われるもので、VBRとも呼ばれます。映像や音声の情報量に応じて圧縮率が変化することから固定ビットレートのような予測は難しいですが、全体的に画質や音質が良くなります。
また、平均ビットレートも映像や音声のエンコードに使われるもので、固定ビットレートと同じく目標としたデータ量でエンコードしますが、可変ビットレートでエンコードしてその平均値が目標値に近くなるように調整されます。
動画品質とビットレートの関係

ビットレートは動画の画質に直接影響します。高いビットレートでは、より多くの映像情報を保存できるため、細部まで鮮明な映像を表現できます。一方、低いビットレートでは、データ量を削減するために情報が圧縮され、画質が劣化してしまう傾向があります。
動画ビットレートの目安
解像度 | 推奨ビットレート | 用途 |
4K (3840×2160) | 35〜45Mbps | プロ向け高品質配信 |
Full HD (1920×1080) | 8〜12Mbps | 高品質ストリーミング |
HD (1280×720) | 3〜6Mbps | 一般的なオンライン動画 |
SD (640×480) | 1〜2Mbps | モバイル向け低帯域配信 |
実際の最適なビットレートは、映像の内容(動きの多さ)や使用するコーデック、視聴環境などによって異なります。例えば、激しい動きのあるスポーツ映像は、静止画の多いインタビュー映像よりも高いビットレートが必要です。
音声品質とビットレートの関係
音声においても、ビットレートは音質を左右する重要な要素です。音声のビットレートが高いほど、原音に近い豊かな音質を再現できますが、ファイルサイズも比例して大きくなります。画質が劣化してしまう傾向があります。
音声のビットレート目安
品質レベル | ビットレート | 用途 |
スタジオ品質 | 1,411Kbps(CD品質) | 音楽制作、マスタリング |
高品質 | 256〜320Kbps | 高音質音楽配信 |
標準品質 | 128〜192Kbps | 一般的な音楽配信、動画BGM |
低品質 | 64〜96Kbps | 音声通話、ラジオ放送 |
固定ビットレートと可変ビットレートの違い
ビットレートには、大きく分けて2種類の設定方式があります。
1. 固定ビットレート(CBR:Constant Bit Rate)
CBRは、映像や音声の内容に関係なく、常に一定のビットレートでデータを処理する方式です。
メリットは、
- ファイルサイズが予測しやすい
- 再生環境の安定性が高い
- ストリーミング配信に適している
デメリットは、
- 単純なシーンでも無駄にデータを使用する
- 複雑なシーンでは品質が不足する場合がある
2. 可変ビットレート(VBR:Variable Bit Rate)
VBRは、映像や音声の複雑さに応じてビットレートを動的に変化させる方式です。
メリットは、
- 映像・音声の内容に応じた効率的なデータ配分
- 同じファイルサイズでより高い品質を実現可能
- 複雑なシーンでも品質を維持できる
デメリットは、
- ファイルサイズの予測が難しい
- エンコード処理に時間がかかる
- 一部の古い再生環境で問題が生じる場合がある
動画配信におけるビットレートの重要性

インターネットでの動画配信では、視聴者のネットワーク環境に合わせたビットレート設定が重要です。高すぎるビットレートでは、通信速度が不十分な環境で再生が途切れる「バッファリング」が発生します。逆に低すぎるビットレートでは、不必要に画質が劣化します。
アダプティブ・ビットレート・ストリーミング
現代の動画配信サービス(YouTubeやNetflixなど)では、「アダプティブ・ビットレート・ストリーミング」という技術が採用されています。これは視聴者のネットワーク状況に応じて、複数の品質(ビットレート)の中から最適なものを自動的に選択して配信する方式です。
この技術により、視聴者は通信環境に応じた最適な品質で、バッファリングの少ない視聴体験を得られるようになりました。
ビットレートとコーデックの関係
ビットレートとともに重要なのが「コーデック」です。コーデックは映像や音声を圧縮・展開するための技術で、同じビットレートでも使用するコーデックによって品質が大きく変わります。
主要な動画コーデック
コーデック | 特徴 | 適した用途 |
H.264/AVC | 互換性が高く普及している | 汎用的な動画配信 |
H.265/HEVC | H.264より約50%効率的 | 4K・8K配信、帯域制限がある環境 |
VP9 | Googleが開発、オープンソース | YouTube、ウェブ配信 |
AV1 | 次世代オープンソースコーデック | 超高解像度配信、将来的な普及が期待 |
最新のコーデックほど圧縮効率が良く、同じビットレートでもより高品質な映像を実現できますが、エンコード・デコードの処理負荷も高くなる傾向があります。
ビットレートを設定する際のポイント

ビットレートを高く設定すると、メリットだけではなくデメリットもあるため注意しなければなりません。では、どのようにして設定すればよいのでしょうか。ここでは、最適なビットレートを設定する際のポイントとして3つを紹介します。
1. フレームレートを見直す
動きが少ない動画であれば、フレームレートを抑えることでビットレートを下げられます。もしビットレートが高すぎるのであれば、フレームレートを見直してみましょう。
具体的には、フレームレートが60fpsの動画であれば、30fps程度に下げるとビットレートを抑えることが可能です。インタビュー動画のようにそれほど滑らかな動きを求めていないものならば、30fpsでも問題ありません。
一方で、動きや展開が激しい動画の場合は、30fpsだと足りないかもしれません。この点については、動画編集や配信の際にフレームレートを調整し、どのくらいならば最適なのかを検討するのがおすすめです。
2. 解像度を適切に設定する
次に、解像度を適切に設定してみます。つい解像度を高く設定したくなりがちですが、高くするとその分だけビットレートも高くなってしまいます。そのため、必要以上に高い設定をするのはやめておきましょう。
一般的な視聴環境では、解像度はフルHD程度でも十分です。その理由は、現在のスマホやPCモニターで対応している解像度はフルHD程度であることが多いためです。仮に4Kに設定しても、そのまま表示できる視聴者はそう多くはないでしょう。
3. コーデックの種類を確認しておく
高画質かつ高音質に対応したコーデックだと、データ量も増えてしまいます。そのため、コーデックの種類を確認しておくことで、適切なビットレートを選択しやすくなります。
一方、どのような環境で視聴するのかが決まっているのであれば、その条件に合わせて対応したコーデックを選ぶようにしましょう。例えば、AV1はGoogleやApple などが共同で開発したコーデックであり、YouTubeでも採用されているコーデックです。
ビットレート最適化のテクニック
高品質な映像・音声を効率的に配信するためのテクニックをご紹介します。
2パス(マルチパス)エンコード
2回以上のエンコードを行うことをマルチパスエンコードと言います。1回目のエンコードで映像の複雑さを分析し、2回目のエンコードでビットレートを最適に配分するテクニックです。画質と圧縮率のバランスは優れていますが、1パスエンコードよりも処理時間は長くなります。
セグメント単位のビットレート調整
映像を短いセグメント(区間)に分割し、それぞれの複雑さに応じてビットレートを調整する技術です。動画の再生品質を維持しつつ、ネットワーク環境の変化に対応したり、ファイルサイズを最適化したりすることが可能になります。
動画配信の品質と効率を両立させるための重要な技術で、より快適な視聴体験を提供できます。
最適なビットレートの選び方
実際のプロジェクトで最適なビットレートを選ぶ際の注意点をご紹介します。
1. 配信先メディアの特性を考慮する
- オンライン動画配信:視聴環境の多様性を考慮し、複数のビットレートで用意
- 放 送 用:高品質重視で高ビットレートで設定
- アーカイブ用:将来の再利用を考慮した高ビットレートに設定
2. コンテンツの特性を分析する
- 動きの激しいスポーツ映像:できるだけ高ビットレートが必要
- 静的なプレゼンテーション映像:比較的低いビットレートでも可
- 精細な質感が重要な映像(ファッション、料理など):中〜高ビットレートが理想的
3. 目標とする視聴環境をイメージする
- モバイル視聴がメインの場合:低〜中ビットレート
- 大画面テレビでの視聴:高ビットレート
- 多様な環境での視聴:複数のビットレートのバージョンを用意
よくある疑問について
Q: ビットレートを上げれば、必ず品質(画質)は向上しますか?
A: 一定以上のビットレートでは、人間の目では違いを認識できなくなる「知覚限界」があります。また、元素材の品質(画質)以上には向上しません。コスト効率と品質のバランスを考慮することが重要です。
Q: ファイルサイズとビットレートの関係は?
A: 簡単な計算式は以下の通りです。
ファイルサイズ(バイト)≒ ビットレート(bps)× 再生時間(秒)÷ 8
例:10Mbpsのビットレートで5分間の動画のファイルサイズは約375MB(10,000,000 × 300 ÷ 8 ÷ 1,000,000)となります。
Q: 解像度とビットレートはどう関係しますか?
A: 高解像度になるほど、同じ視聴覚品質を維持するためにはより高いビットレートが必要です。ただし、解像度が2倍になるとビットレートも単純に2倍必要というわけではなく、効率的なコーデックを使用することで抑えられます。
まとめ

ビットレートは、デジタル映像・音声の品質を決定する重要な要素です。安易に設定するとデータ量が多くなりすぎたり、快適に配信できなかったりなどの問題が生じてしまいます。最適なビットレートは、コンテンツの特性(動きの量、複雑さ)と配信環境(ネットワーク帯域、視聴デバイス)、使用するコーデックや求める品質レベル、ストレージやコストの制約などのバランスによって決まります。
動画制作や配信を行う際は、これらの要素を総合的に検討し、目的に適したビットレート設定を選択することが、視聴者に最適な体験を提供するカギとなります。最新のコーデックや配信技術の動向にも注目しながら、効果的なビットレート戦略を構築しましょう。
動画制作に関しては、外部に依頼するのもおすすめです。当社ではさまざまな目的に応じた動画制作に対応しているため、気になる方はぜひ一度相談してみてはいかがでしょうか。特に初めて動画を制作する方であれば、相談することでさまざまなアイデアや発見があるかもしれません。