製品の環境負荷を数値で示すだけでは、もはやステークホルダーの心に響かない時代になりました。EU電池規則やカーボンフットプリント開示義務化など、環境情報開示の要求は一層厳格化する方向へ向かっています。
。しかし、膨大で難解なLCA(ライフサイクルアセスメント)データを、専門外の顧客や投資家にどう伝えるかは多くの企業の課題です。そこで、複雑なデータを「直感的な情報」に変換するツールとして、製品ライフサイクル動画が注目されています。本記事では、設計から廃棄までの各フェーズをどう映像化し、説得力ある環境訴求につなげるか、その制作フレームワークと実践ポイントを解説します。
製品ライフサイクル動画が製造業に求められる背景

環境情報開示の国際的な潮流
プライム市場上場企業を中心に、自社だけでなくサプライチェーン全体のCO2排出量可視化が必須となっています。特に輸出製品においては、製品単位のカーボンフットプリント(CFP)提示が取引条件となるケースも増えており、「選ばれるための証明書」として分かりやすい情報開示が求められています。EUでは2027年までにデジタル製品パスポート(DPP)の導入が予定されており、製品のライフサイクル情報を追跡可能な形で開示することが輸出要件となる見込みです。
こうした規制強化を背景に、環境レポートやCSR報告書だけでなく、より直感的に伝わる動画コンテンツへのニーズが高まっています。商談初期では、詳細な数値比較よりも「その企業がどのレベルで環境配慮に取り組んでいるか」を短時間で把握できる情報が求められます。そのため、全体像を一望できる動画資料があることで、他社との差異が直感的に伝わり、結果として差別化要因となるケースが増えています。
文字・数値情報の限界と動画の優位性
LCA(ライフサイクルアセスメント)データは専門性が高く、CSVやPDFの羅列では、その削減努力が顧客や投資家に正しく評価されにくくなります。一方、動画であれば複雑なプロセスを時系列で追いながら、視覚的に理解を促進できます。製品が原材料から製造、使用、廃棄・リサイクルへと循環する流れを3DCGやモーショングラフィックスで表現することで、非専門家でも全体像を把握しやすくなります。
一般的に、動画コンテンツは文字情報と比較して視覚と聴覚の両方に訴えかけるため、情報の理解促進や記憶定着に効果的とされています。この特性を活かし、環境配慮の「本気度」を伝えるツールとして製品ライフサイクル動画を位置づける企業が増加しています。
ライフサイクル各フェーズの映像化アプローチ

設計フェーズ:環境配慮設計の意図を可視化する
製品の環境負荷は、設計段階で大部分が決定されると言われています。このフェーズでは、3DCGを活用してエコデザインの思想を表現することが効果的です。
具体的には、部品点数削減による省資源化、分解容易性を考慮した構造設計、リサイクル材の採用判断プロセスなどを、設計CADデータをベースにしたCGアニメーションで示します。従来の断面図や図面では伝わりにくい「なぜその設計を選んだのか」という意思決定の背景を、視聴者が追体験できる構成にすることがポイントです。
製造・調達フェーズ:サプライチェーンの透明性を示す
原材料調達から製造工程における環境負荷低減の取り組みは、近年特に注目度が高い領域です。工場の実写映像と、エネルギー消費や排出量データを組み合わせたインフォグラフィックスにより、定量的な根拠とともに取り組みを伝えられます。
再生可能エネルギーの導入状況、水資源の循環利用システム、廃棄物削減プロセスなど、現場の映像があることで信頼性が格段に向上します。ドローン撮影による工場全景や、製造ライン内部の撮影は、視聴者に臨場感を与え、取り組みの実在性を証明する役割を果たします。
使用・廃棄フェーズ:循環経済への貢献を描く
製品の長寿命化、修理・メンテナンス体制、使用済み製品の回収・リサイクルスキームは、循環経済(サーキュラーエコノミー)の観点から重要性が増しています。
このフェーズの映像化では、製品が廃棄されて終わりではなく、資源として再び循環する流れを示すことが鍵となります。リサイクル工程の実写映像や、再資源化された素材が新たな製品に生まれ変わる過程をCGで表現することで、「ゆりかごからゆりかごへ」というコンセプトを視覚的に伝達できます。
環境配慮訴求で説得力を高める表現技法

データビジュアライゼーションの活用
CO2排出量やエネルギー消費量などの数値は、そのまま提示しても比較対象がなければ実感が湧きません。モーショングラフィックスを用いて、従来製品との比較、業界平均との差異、削減目標に対する進捗などを動的に表現することで、数値に意味を持たせることができます。
例えば、削減したCO2量を森林吸収量に換算して表現する手法があります。ただし、林野庁の資料によれば、杉の木のCO2吸収量は樹齢や生育条件によって大きく異なるため、「50年生のスギ人工林換算」など算定条件を明記することが重要です[林野庁]。こうした根拠を示したうえで、アニメーションで木が成長していく演出を加えると、専門知識がない視聴者にも直感的に理解されやすくなります。
第三者認証・規格との紐付け
ISO14001やSBT認定など、第三者機関による認証は環境訴求の信頼性を高める重要な要素です。また、カーボンニュートラル宣言のような企業の自主的なコミットメントも、具体的な取り組みとあわせて示すことで訴求力が高まります。動画内でこれらの認証マークや宣言内容、取得・策定の経緯を示すことで、自社の主張に客観的な裏付けを与えられます。
認証取得の努力や審査プロセスの一部を映像に含めることで、形式的なマーク表示以上の説得力が生まれます。ただし、誇大表現やグリーンウォッシュと受け取られないよう、事実に基づいた誠実な表現を心がける必要があります。
制作プロセスと社内連携のポイント

関連部門からの情報収集と整理
製品ライフサイクル動画の制作には、設計・開発、調達、製造、品質管理、環境管理、広報など複数部門の協力が不可欠です。各部門が持つデータや知見を集約し、動画の構成に反映するための事前準備が成否を分けます。
特にLCAデータや環境負荷の定量情報は、環境管理部門や外部コンサルタントが保有していることが多く、早期段階での連携が重要です。また、工場撮影の許可申請や、映り込むべきでない情報の整理など、セキュリティ面での調整も必要となります。
制作パートナー選定の基準
製品ライフサイクル動画は、実写撮影、3DCGモデリング、モーショングラフィックス、ナレーション収録など複合的な技術を要します。これらを一貫して対応できる制作体制があるかどうかが、品質とスケジュール管理の両面で重要な判断基準となります。
特に製造業の専門的な内容を扱う場合、技術的な用語や製造プロセスへの理解があるパートナーでなければ、意図した訴求内容が正確に表現できないリスクがあります。映像・CG制作の実績を確認し、類似業界での制作経験を持つパートナーを選定することが推奨されます。
動画活用シーンと効果測定の考え方

想定される活用チャネル
製品ライフサイクル動画は、以下のような多様なシーンで活用できます。
- 展示会・商談:ブースでのループ再生、タブレットでの個別説明用
- Webサイト:製品ページやサステナビリティページへの埋め込み
- 投資家向け説明:IR資料、統合報告書の補足コンテンツ
- 社内教育:新入社員研修、サプライヤー向け説明資料
- 採用活動:企業の環境への姿勢を伝える採用ブランディング素材
用途によって尺や編集のトーンを調整する必要があるため、制作段階から複数バージョンの展開を想定しておくと効率的です。
効果測定の指標設定
動画の効果測定は、視聴回数だけでなく、視聴完了率、視聴後のWebサイト回遊、問い合わせ数の変化など複合的な指標で評価することが望ましいです。
BtoB領域では直接的なコンバージョンが測定しにくいケースも多いため、営業担当からのフィードバック(商談での反応、顧客からの言及など)も重要な定性情報となります。継続的に測定・改善のサイクルを回すことで、次回制作時の改善点も明確になります。
まとめ
製品ライフサイクル動画は、設計から廃棄までの環境配慮を一貫したストーリーとして伝える有力な手段です。規制強化やステークホルダーの意識変化が進む中、数値データだけでは伝わらない「取り組みの本質」を映像で可視化することの価値は高まり続けています。
制作にあたっては、社内の関連部門との連携による正確な情報収集、データと映像を組み合わせた説得力ある表現、そして複数チャネルでの展開を見据えた設計が重要です。環境訴求動画の企画や制作について具体的な検討を進めたい場合は、専門家への相談を通じて、自社製品に最適なアプローチを探ってみてください。
