
動画広告にはさまざまな種類があり、現代のデジタルマーケティングにおいては欠かせない広告手法です。自社に合った媒体を採用して動画を発信することで、広告効果を最大限に高められます。しかしどのような種類があるのか、どれを選べば良いのかよく分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、動画広告の特徴から、配信媒体の比較、課金方式、制作ポイント、成功事例まで詳しく説明します。まだ本格的に取り組んでいない企業の方は、自社に適切な動画広告戦略を考える参考にしてください。
動画広告とは何か?市場の現状と将来性
動画広告とは、企業や組織が商品・サービスのプロモーションや ブランド認知向上を目的として、動画形式で制作・配信する広告のことです。従来の静止画やテキスト中心の広告と比較して、動画広告は映像と音声を組み合わせることで、より豊富な情報を短時間で効果的に伝達できる特徴があります。
近年、スマートフォンの普及と通信インフラの進歩により、消費者が動画コンテンツを視聴する機会が劇的に増加しています。総務省の調査によれば、個人のインターネット利用率は2023年に86.2%に達し、多くの人が日常的にオンライン動画を視聴する環境が整備されました。
総務省:令和6年度版情報通信白書「情報通信分野の現状と課題」
急速に拡大する動画広告市場
株式会社サイバーエージェントが発表した最新の市場調査によると、2024年の国内動画広告市場規模は7,249億円に達し、前年比116%の成長を記録しています。さらに注目すべきは、この成長トレンドが継続すると予測されており、2028年には市場規模が1兆1,471億円に到達する見込みです。
この市場拡大の背景には、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う消費者行動の変化や企業のデジタルトランスフォーメーション推進があります。ステイホーム期間中に動画視聴時間が大幅に増加し、企業も従来のマス広告からデジタル広告へのシフトを加速させています。
アドバタイムズ:「2024年の動画広告市場規模は、昨年対比115.9%となる7,249億円」
動画広告が注目される理由
スマートフォンの普及など視聴環境の発達により手軽に動画を視聴できる環境が整い、ユーザーがYouTubeなどの動画プラットフォームを日常的に利用するようになり、動画広告に触れる機会が増えました。また動画はSNSにより視聴者に拡散されやすく、短期間で認知度を高める「バズる」現象が期待できるため、広告として費用対効果に優れています。動画広告は、商品の魅力を効果的に伝え、ブランド認知度の向上や集客・売上増に繋がるため、企業にとって非常に有効な手段となっています。
また日本のデザイン会社が実施した調査では、同一ビジュアルの広告であっても、静止画よりも動画の方が6倍以上のクリック率を記録したことが公表されており、動画広告の優位性が数値的にも証明されています。
株式会社ジム:「動画広告と静止画のバナー広告ではどちらが効果がある?」
動画広告の主要な種類と特徴
動画広告は配信場所や再生タイミングによって複数の種類に分類されます。それぞれの特徴を理解して、目的に応じた最適な広告形式を選択することが成功への鍵となります。
インストリーム広告
インストリーム広告は、YouTube等の動画配信プラットフォームにおいて、ユーザーが視聴する動画コンテンツの前後や途中で再生される広告形式です。この広告タイプは、動画の再生タイミングにより、プレロール、ミッドロール、ポストロールの3種類があります。
プレロール広告は動画再生前に流れる最も一般的な形式で、ユーザーの注意を確実に引きつけることができます。ミッドロール広告は動画の途中で挿入されるため、既に視聴に集中しているユーザーにアプローチできる利点があります。ポストロール広告は動画終了後に再生されるため、離脱率は高くなりますが、興味を持ったユーザーのコンバージョン獲得に効果的です。
インストリーム広告には、5秒後にスキップ可能なスキッパブル広告と、最後まで視聴が必須なノンスキッパブル広告があります。スキッパブル広告では冒頭5秒でユーザーの関心を引きつける工夫が不可欠であり、ノンスキッパブル広告では15秒以内という時間制約の中で確実にメッセージを伝達する必要があります。
インバナー広告
インバナー広告は、Webサイトの従来のバナー広告枠に配置される動画広告です。この形式の最大の利点は、動画配信サービスを利用しないユーザーにもリーチできることです。
Yahoo!JAPANのトップページや各種ニュースサイトなど、日常的に多くの人が訪問するWebサイトの広告枠を活用することで、幅広いターゲット層への露出が可能になります。インバナー広告は通常、音声がミュート状態で再生開始されるため、テロップや視覚的な表現のみでも内容が理解できるよう設計することが重要です。
インリード広告
インリード広告は、ユーザーがWebサイトやSNSでコンテンツを閲覧中に、記事間やタイムライン上に自然に表示される広告形式です。この広告の特徴は、ユーザーのスクロール動作によって広告が画面に現れたタイミングで動画再生が開始されることです。
インリード広告は、メインコンテンツの閲覧中に自然な形で表示されるため、ユーザーにとって侵入感が少なく、受け入れられやすい広告形式といえます。特にSNSプラットフォームでは、通常の投稿と似たデザインで表示されることが多く、広告としての違和感を軽減する効果があります。
インフィード広告
インフィード広告は、SNSのタイムラインやニュースフィードの中に、通常のコンテンツと同様の形式で表示される広告です。インリード広告と類似していますが、主な違いは静止画やテキスト形式での表示が中心であることです。
ユーザーが広告をクリックすることで動画が再生される仕組みが一般的で、興味を持ったユーザーのみが動画を視聴するため、エンゲージメント率が高くなる傾向があります。
バンパー広告
バンパー広告は、6秒以内という短時間でメッセージを伝える動画広告形式です。スキップができない仕様のため、ユーザーに確実に視聴してもらうことができますが、同時に短時間で強いインパクトを与える必要があります。
この広告形式は、ブランド認知度向上や商品名の浸透を目的とする場合に特に効果的です。限られた時間内で最大限の印象を残すため、キャッチーな音楽や印象的なビジュアルの活用が成功の鍵となります。
動画広告の配信媒体と特徴
YouTube
YouTubeは世界最大の動画配信プラットフォームであり、日本国内でも月間7,300万人以上が利用しています。幅広い年齢層に対してアプローチできることが最大の特徴で、詳細なターゲティング機能により効果的な広告配信が可能です。
YouTubeでは前述したインストリーム広告をはじめ、検索結果に表示されるインフィード動画広告、トップページ最上部のマストヘッド広告など、多様な広告フォーマットを提供しています。特に、商品デモンストレーションや企業紹介動画など、比較的長尺のコンテンツとも相性が良い媒体です。
TikTok
TikTokは10代から20代の若年層を中心に急速に利用者が拡大している縦型ショート動画プラットフォームです。国内の月間アクティブユーザー数は3,300万人を超え、Z世代マーケティングには欠かせない媒体となっています。
TikTokの動画広告は、ユーザー生成コンテンツと自然に融合する形で表示されるため、広告らしさを感じさせないクリエイティブが求められます。15秒程度の短尺動画が中心で、トレンドやハッシュタグを活用した拡散性の高い広告展開が可能です。
LINE
LINEは日本国内で9,900万人以上が利用する最大級のコミュニケーションプラットフォームです。全年代にわたって高い利用率を誇り、日常的に使用されているアプリ内で広告配信できるため、到達率の高さが特徴です。
LINE広告は、トークリスト、LINE NEWS、LINE VOOMなど14の配信面を活用でき、ユーザーの属性や行動履歴に基づく精度の高いターゲティングが可能です。特に地域密着型のビジネスや幅広い年代をターゲットとする商材との相性が良い媒体です。
Facebook・Instagram
FacebookとInstagramは、Meta社が運営するSNSプラットフォームで、連携した広告配信が特徴です。Facebookのユーザー数は2,600万人以上で、30代以上のビジネスパーソンが多く、BtoBマーケティングに適しています。一方、Instagramのユーザー数は6,600万人以上で、女性ユーザーが多く、ビジュアル重視の商材に向いています。
両プラットフォームとも実名制であるため、ユーザーの属性情報が正確で、高精度なターゲティングが可能です。また、豊富な広告フォーマットと詳細な効果測定機能により、ROI(Return on Investment:投資利益率)の高い広告運用が期待できます。
動画広告の課金方式と料金例
動画広告の課金方式
動画広告の課金方式は、広告の目的や効果測定の重視ポイントによって選択します。主要な課金方式は以下の3つです。
CPM(Cost Per Mille)課金
CPM課金は、広告が1,000回表示されるごとに課金される方式です。動画の視聴時間やユーザーのアクションに関係なく、表示回数のみで課金されるため、ブランド認知度向上を主目的とする広告キャンペーンに適しています。
CPV(Cost Per View)課金
CPV課金は、動画が一定時間視聴された際に課金される方式です。YouTubeの場合、30秒以上の視聴または広告内リンクのクリックで1回としてカウントされます。実際に動画を視聴したユーザーのみが課金対象となるため、費用対効果が高い課金方式として広く採用されています。
CPC(Cost Per Click)課金
CPC課金は、ユーザーが広告をクリックした際に課金される方式です。具体的なアクションを起こしたユーザーのみが課金対象となるため、コンバージョン重視の広告運用において効率的な課金方式といえます。
| 課金方式 | 特徴 | 主な用途 |
| CPM | 1,000回表示ごとに課金 | ブランド・商品の認知拡大 |
| CPV | 一定時間視聴ごとに課金 | 視聴完了率・費用対効果重視 |
| CPC | クリックごとに課金 | サイト誘導・アプリDL等、CV重視 |
広告出稿・制作の相場や料金例
動画広告の出稿費用は媒体やターゲット、配信量によって大きく異なります。例えばYouTubeのCPV課金では1再生あたり3~20円くらいが相場で、CPM課金の場合は1,000回表示あたり500~2,000円くらいが一般的です。
制作費用は、シンプルなアニメーション動画で 10万円前後から、プロモーション動画やストーリー性のある映像では 50万円~100万円以上かかることもあります。予算や目的に応じて、媒体選定やクリエイティブの内容を調整することが大切です。
- CPV課金:1再生 3~20円
- CPM課金:1,000回表示 500~2,000円
- 制 作 費:10万円~100万円以上
動画広告のメリットとデメリット

動画広告の主なメリット
動画広告の最大のメリットは、圧倒的な情報伝達力です。映像、音声、テキストを組み合わせることで、短時間で豊富な情報をユーザーに届けることができます。また、ストーリー性を持った構成により、ユーザーの感情に訴えかけ、記憶に残りやすい広告体験を提供できます。
さらに、動画広告はSNSでの拡散性が高く、魅力的なコンテンツであれば自然にシェアされ、追加費用なしで露出機会を拡大できる可能性があります。株式会社ネオマーケティングの調査では、動画広告によってブランドや企業への印象が良くなった人が26.6%存在することが明らかになっており、ブランディング効果の高さも証明されています。
効果測定の精度も動画広告の大きなメリットです。再生回数、視聴時間、クリック数、コンバージョン率などの視聴データにより、多角的な指標でリアルタイムに効果を把握でき、迅速な改善サイクルを回すことが可能です。
考慮すべき主なデメリット
動画広告の主なデメリットは、制作コストと時間の必要性です。質の高い動画広告を制作するためには、企画から撮影、編集、音響まで専門的な知識とスキルが要求され、外注する場合は内容により30万円〜200万円程度の予算が必要となります。
また、動画の品質が低い場合、ブランドイメージの毀損につながるリスクもあります。視聴者にとって魅力的でないコンテンツは、スキップや離脱を招くだけでなく、企業や商品へマイナスの印象を与える可能性があるため、制作段階での品質管理が重要です。
効果的な動画広告制作のポイント
目的とターゲットの明確化
効果的な動画広告制作の第一歩は、明確な目的設定とターゲット定義です。ブランド認知向上、販売促進、リード獲得など、具体的な目標を設定することで、メッセージの方向性や表現手法を決定できます。
ターゲットについても、年齢、性別、職業、興味関心など、可能な限り詳細なペルソナを設定することが重要です。明確なターゲット像があることで、響くメッセージやクリエイティブの方向性が定まり、より効果的な動画広告を制作できます。
媒体特性に応じた最適化
動画広告の効果を最大化するためには、配信媒体の特性に合わせた最適化が不可欠です。YouTubeでは比較的長尺の詳細説明が可能である一方、TikTokでは15秒程度の短時間で強いインパクトを与える必要があります。
また、スマートフォンでの視聴が中心となる現在、縦型動画や正方形動画など、デバイスに最適化されたフォーマットでの制作も重要な要素です。さらに、音声がミュート状態で再生開始される媒体では、テロップやビジュアルのみで内容が理解できる設計が求められます。
冒頭5秒の重要性
多くの動画広告でスキップ機能が提供されているため、冒頭5秒でユーザーの興味を引きつけることが極めて重要です。この短時間で最も訴求したいメッセージを伝え、続きを見たいと思わせる工夫が必要です。
効果的な手法として、商品名やブランド名を冒頭で明示する、インパクトのあるビジュアルや音楽で注意を引く、視聴者の課題や関心事を提起する、などがあります。冒頭で視聴者の心を掴むことができれば、最後まで視聴してもらえる可能性が高くなります。
成功事例に学ぶ動画広告活用法
BtoB企業の事例:クリタグループ栗田工業
超純水を精製する水処理装置メーカーのクリタグループ栗田工業は、技術的な商品特性を分かりやすく伝えるため、ストーリー性を重視したと思われる動画広告を制作しました。前半で「水への向き合い方」を物語として展開し、後半で具体的な技術や用途を分かりやすく説明する構成により、視聴者の理解と共感を同時に獲得できているのではないでしょうか。
YouTube:クリタグループ「企業プロモーション映像」
BtoB企業の事例:株式会社島津製作所
精密機器メーカーの島津製作所は、YouTubeを活用した包括的な広告戦略を展開しています。企業紹介や技術説明動画に加え、社内テニスチームの活動など親しみやすいコンテンツも配信し、硬くなりがちなBtoB企業のイメージを和らげているのではないでしょうか。
「世界に答えを。-島津製作所、乳がんと向き合う。」という動画広告は600万回を超える再生数を記録し、企業ブランドの価値向上に大きく貢献したと思われます。社会的意義のあるメッセージを込めることで、商品プロモーションを超えた共感を獲得した優秀な事例と言えるでしょう。
YouTube:島津製作所「世界に答えを。乳がんと向き合う。」
グローバル企業の事例:Volvo Trucks
スウェーデンのトラックメーカーのVolvo Trucksは、トラックの安定性を驚くべき表現で見せました。格闘家で映画俳優のジャン・クロード・ヴァン・ダムが2台のトラックに足をかけて走行します。トラックのハンドル操作の安定性をアピールするのが目的ですが、英語が分からなくても瞬時に内容を理解できるでしょう。
この動画のインパクトは大きく、ネット上ですぐに拡散されました。コンテンツの質が高いため、自社の情報を伝えていない映像にもかかわらず、ブランド価値が上がった好例と言えるでしょう。
YouTube:Volvo Trucks「Volvo Trucks – The Epic Split feat. Van Damme」
動画広告の効果測定と改善方法

動画広告の成果を最大化するためには、適切な効果測定と継続的な改善が不可欠です。主要な測定指標には、インプレッション数、視聴回数、視聴完了率、クリック率、コンバージョン率などがあります。
重要な測定指標
視聴完了率は動画コンテンツの魅力度を測る重要な指標です。高い完了率は、ユーザーにとって有益で興味深いコンテンツであることを示しています。一方、離脱率が高い場合は、構成の改善や内容の見直しが必要になります。
クリック率とコンバージョン率は、動画広告の最終的な成果を測定する指標です。高い視聴率にも関わらずクリック率が低い場合は、CTA(Call to Action)の改善や動画内容とランディングページの整合性確認などが効果的です。
継続的な改善サイクル
動画広告の効果測定データを基に、仮説を立てて改善施策を実行するPDCAサイクルの確立が重要になります。A/Bテストを活用して異なるクリエイティブや配信設定を比較検証し、最も効果の高い組み合わせを特定していきます。
改善要素として、動画の長さ、開始シーン、音楽、テロップの文言、CTA の配置など、細部にわたって検証することで、継続的な成果向上が可能になります。
動画広告制作における注意点
品質へのこだわり
動画広告の品質は、企業ブランド全体の印象に直結する重要な要素です。低品質な動画は視聴者に悪印象を与え、ブランド価値の毀損につながるリスクがあります。映像の解像度、音質、編集のクオリティなど、技術的な基準を満たすことは必要最低限の条件です。
さらに重要なのは、コンテンツとしての魅力です。視聴者にとって価値のある情報やエンターテインメント性を提供できているか、ブランドメッセージが適切に伝わっているかなtど、戦略的な観点からも品質を評価する必要があります。
モバイルファーストの考え方
現在では動画の多くはスマートフォンによって視聴されているため、モバイル端末での視聴体験を最優先に考慮した企画制作が必要です。縦型や正方形のフォーマット、字幕の見やすさ、タッチ操作への配慮など、モバイル環境特有の要素を意識したクリエイティブ設計が求められます。
動画広告の将来展望
5G通信技術の普及に伴い、より高品質で長尺の動画コンテンツの視聴が一般化すると予測されます。これによって動画広告の表現可能性も拡大し、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を活用したインタラクティブな広告体験の提供も現実的になってきています。
また、AI技術の発達に伴い、個々のユーザーの嗜好に最適化された動的な動画広告の生成や、リアルタイムでの最適化が可能になることも期待されています。これらの技術革新により、動画広告の効果はさらに向上していくでしょう。
まとめ
動画広告は、現代のデジタルマーケティングにおいて欠かせない重要な表現手段です。急速に拡大する市場規模と多様化する配信プラットフォームにより、企業にとって大きな機会が生まれています。
効果的な動画広告を実現するためには、明確な目的設定、詳細なターゲット分析、媒体特性に応じた最適化、継続的な効果測定と改善が重要です。また、制作段階から配信後の運用まで、一貫した戦略のもとで取り組むことで、投資対効果の高い成果を期待できます。
動画広告市場が成長する中、まだ本格的に取り組んでいない企業にとって、競合他社と差別化して市場ポジションを確立する絶好の機会といえるでしょう。自社の目的と予算に応じた適切な動画広告戦略を策定し、デジタルマーケティングの新たな可能性を追求してみてはいかがでしょうか。
